加賀百万石の藩都、金沢。
金沢には今も、京都の公家文化とは一線を画する武家文化が残されています。
金沢市内の長町(ながまち)には特に、土塀や石畳など、当時の面影が色濃く残されています。
その長町の一角にあるのが、「武家屋敷跡 野村家」。
金沢市民である僕は、この「武家屋敷跡 野村家」の庭園を金沢観光でいくべき場所として、お薦めしたいと思います。
武家屋敷 野村家の庭園で足し算の日本美を感じる
金沢で庭園と言えば、兼六園ですが、野村家の庭園は兼六園とは全く違った趣があります。
野村家の庭園の広さは約300㎡、兼六園のような大きい庭園ではありません。
そもそも加賀藩における野村家とは?
野村家は元々、前田利家の金沢入城の際に、利家の直属の部下として従った家柄で、禄高は1200石。
以来、明治4年の加賀藩の廃藩まで続く由緒と格式がある家柄。
ちなみに、加賀藩の家老である加賀八家(かがはっか)の石高が1万石以上。
それと比較すると野村家の1200石は、正に中級武士にあたります。
※加賀八家:加賀藩を支える1万石以上の家老で、特に8つの家が加賀八家と呼ばれる。
本多家・長家・横山家・村井家・前田家(直之系)・奥村宗家・前田家(長種系)・奥村家の八家
野村家の庭園は足し算の美
京都の龍安寺に代表される枯山水は、引き算の美と言われることがあります。
水を感じたいから水を無くした(引いた)、というのが枯山水の考え方。
枯山水に限らず、侘び・寂びに代表されるように、華美を排し(引き)、何もないからこそ、そこに至高の美を感じるというのが、引き算の美。
金沢の大手町にある「武家屋敷 寺島蔵人邸」の庭園にある池は、「乾泉」と呼ばれる枯池で、正に水を「引いた」池となっており、野村家とは違った趣のある庭園となっています。
これが日本的な美意識のひとつとされます。
【武家屋敷】金沢では野村家だけではなく、寺島蔵人邸もチェック
「武家屋敷跡 野村家」とは、趣が異なる「寺島蔵人邸」。乾泉と名付けられた枯池を中心とした、池泉式庭園が見所。春のドウダンツツジの時期と秋の紅葉時がおススメ。
一方、西洋は足し算の文化と言われることがあります。
西洋は、引くのではなく、ひとつひとつ積み重ねたり、構築したものを美しいと感じる美意識。
「武家屋敷 野村家」で見て欲しいのは、ため息が出るほどに美しい、日本的な「足し算」の庭園。
曲水を観たいから曲水を作り、水の音を感じたいから落水を施した、という具合。
それを歩いて観て回るのではなく、濡れ縁で座ったまま観ることが出来るように造園。
僕には、野村家の庭園の美しさは、日本の造形による足し算の日本美にあると感じられる。
野村家の庭園は、ごちゃごちゃしていると感じる手前ギリギリまで足し、屋敷と庭園の絶妙な調和を図っている奇跡的な美しさを楽しめる庭園だと考えます。
つまり、余白を味わう枯山水のコンセプトとは異なり、それほど広くない庭園内に色々配しているが、決して雑多感を感じさせない絶妙な調和を楽しむというコンセプト。
これが「武家屋敷跡 野村家」の庭園。
正に足し算の美。
僕が、「武家屋敷跡 野村家」をおすすめする理由です。
野村家庭園の足し算の美の中身
まず、屋敷の濡れ縁のすぐ下まで、錦鯉が悠然と泳ぐ曲水が配されています。
この曲水の水は、総延長約150kmにも及ぶ金沢の用水網のひとつ、大野庄用水から引き込まれているもの。
金沢 長町武家屋敷跡界隈 意外な水の都
実は、金沢は水の都。この水が藩政時代の金沢の発展を導きます。そして、今もこの水が長町武家屋敷界隈の情緒を生み出すのに一役買っています。知っていると、武家屋敷観光が倍楽しめます。
曲水には、長さ約3mの桜御影石でできた大架け橋が。
また、庭園自体が立体的に造園されており、落差約2mの落水も配されています。
落水を境に、上部が「上段の池」、下部を「下段の池」と呼ばれます。
庭園の木々に目をやると、北陸では生育が難しいとされる山桃が植樹されており、樹齢は約400年。
ちなみにこの山桃の木は、金沢市の保存樹となっています。
庭園内には12基の大きさやデザインが違う灯籠が配置。
中でも、高さ約1.8m(6尺)の大雪見灯籠が、目につきます。
この大雪見灯籠は、11月上旬になると、雪や雨の凍結、氷解により石が割れるのを防ぐ為、薦(こも)が掛けらえ、冬支度をします。
冬には、この薦掛けされた大雪見灯籠が金沢の冬の風景の趣を醸し出します。
2階の茶室「不莫庵(ふばくあん)」の窓からは、庭園の景色を楽しみつつ、お茶を頂くことが出来ます。
※抹茶代:入場料とは別に300円が必要。庭園を眺めながら、抹茶と干し菓子を楽しめる。
どうですか?枯山水とは全く逆で、引いたものを感じさせるのではなく、色々なものを配し、観ることそのものを楽しませるようになっていると思いませんか?
ミュシュラン・グリーンガイドで2つ星を獲得
2009年に「武家屋敷 野村家」はミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで、2つ星を獲得しました。
ちなみに、金沢で2つ星を獲得したのは、「武家屋敷 野村家」と21世紀美術館。
最高の3つ星は兼六園が獲得しています。
また、2003年には、アメリカの庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」誌でも、島根の足立美術館、京都の桂離宮に次ぐ、日本3位に「武家屋敷 野村家」は選ばれています。
こういった海外のメディアで取り上げられたこともあり、「武家屋敷 野村家」には、海外からの旅行者が多く訪れています。
日本人だけでなく、海外の人にも評価して貰えるのは、金沢市民としても嬉しい限り。
「武家屋敷 野村家」のどこに、海外からの、特に西洋からの旅行者は引付けられるのでしょうか?
僕が思うに、上に書いた「足し算の美」の他に、極めて日本的な庭園の造りをしているからではないかと。
それはどういうことかと言うと、
西洋の庭園は、建物や屋敷とは分離して造園されることが多い。
また、花壇や生け垣を用いて、左右対称(シンメトリー)など幾何学的に造園する人工的な庭園美しさを追求するのが特徴とされます。
対して、日本の庭園は、建物・屋敷との調和を考え、一体的に造園されるのが特徴。
朽ちていくことにさえ美しさを感じる自然な美を追求し、非対称(アシンメトリー)に造園されるのも特徴的とされます。
又、日本の庭園は背の高いものを奥に、背の低いものを前に配置し、奥行きや遠近感を用いて、造園されます。
そのため、「武家屋敷 野村家」は西洋の旅行者からみると、非常に日本的に感じるのだと思います。
「武家屋敷 野村家」の濡れ縁のすぐ下にまで迫る曲水は、建物や屋敷とは分離して造園する西洋からすると、非常の珍しく、日本的に映るでしょう。
背の高い灯籠を奥に配置して、それほど広くない庭園で、奥行きを作り出している造園も西洋の人から見ると、非常に興味深い造りなのだと思います。
まとめ
いかがでしたか?
「武家屋敷 野村家」の庭園は、日本人よりもむしろ海外、特に西洋の人に評価されているのでは?と
思うことがあります。
でも日本人も西洋の庭園の造りや考え方、日本の庭園の特徴を少し知っていると、「武家屋敷 野村家」の庭園は非常に興味深いものになると思います。
「武家屋敷 野村家」では、間口からは想像することが難しい程の豊潤な庭園が、奥に広がっています。
それが、現在も周りには人が住んでいる街角にあることにも驚かされると思います。
日本の美意識の表現と、広くはない庭園を日本の造形による工夫で感動させる造りにしている、「武家屋敷 野村家」の庭園。
「武家屋敷 野村家」に入って、奥に広がる感動の庭園を是非楽しんで下さい。
料金・営業時間・定休日・駐車場
料金 |
大人:550円 高校生:400円 小中学生:250円 ※抹茶料(干菓子付):300円 |
営業時間 | 8:30~17:30(4月~9月)
8:30~16:30(10月~3月) ※入館は閉館の30分前まで |
定休日 | 12月26日、27日 |
駐車場 | 6台 |
アクセス
北陸鉄道バス:「香林坊」バス停 徒歩5分