金沢では初夏の7月1日に「氷室饅頭(ひむろまんじゅう)」という酒まんじゅうを食べる習慣が根付いています。
大げさではなく、それこそ金沢の家庭や職場でこぞって食べられます。
一方、金沢の和菓子屋では、「冷やし中華はじめました」並みに、氷室饅頭ののぼりが林立。
金沢市民にとって、この光景はあまりに当たり前すぎて、いちいちこの習慣を教えてくれません。
僕も氷室饅頭の意味と習慣を知ったのは、大阪から金沢に来て3年目でした。
今回は、そんな金沢市民にとっては当たり前の氷室饅頭をご紹介します。
もし、あなたが7月1日に金沢にいらっしゃったら、氷室饅頭を手に取ってみてはいかがですか?
氷室饅頭は色に無病息災の意味が込められる?
氷室饅頭とは、普通、金沢ではあんが入った酒まんじゅうのことを言います。
皮の色は基本的に赤(ピンク)・白・緑(あおと言います)の3色。
あんは皮に色に関係なく、こしあんであることがほとんど。
(和菓子屋さんによっては、皮の色により粒あんや白こしあんを入れているものもあります)
では、この3色に意味はあるのか?
一般的に
- 赤(ピンク):魔除け
- 白:清浄
- 緑(あお):健康・長寿
の意味が込められているとされています。
と言っても、
実際は、これはあくまで諸説あるなかの一つで、もっともらしい意味と言うことのようです。
氷室饅頭のこの色使いと色の意味は、実はひな祭りの菱餅(ひしもち)や花見の団子と同じ。
花見の団子って、赤、白、緑でしょ?
菱餅や花見団子でも、魔除け、清浄、健康・長寿を表わすと言われることがあり、他には
- 赤(ピンク):桃
- 白:雪・残雪
- 緑(あお):新緑
を表わすといわれることも。
菱餅や花見団子の色の意味自体も諸説あるそう。
氷室饅頭の色の意味は、一番しっくりくるからなのか、「魔除け」「清浄」「健康・長寿」を表わすとの考えが金沢では定着しています。
「魔除け」「清浄」「健康・長寿」から、金沢では氷室饅頭を食べると無病息災に繋がると考えられて来ました。
氷室饅頭の由来は氷室開き?
氷室饅頭は氷室開きに関係があるとされています。
藩政期の加賀藩では、冬の間に雪と氷を、氷室(ひむろ)と呼ばれる小屋に貯めて、夏に江戸の徳川将軍家に献上していました。
金沢では今でも、雪氷を徳川将軍家に献上していた旧暦の6月朔日(ついたち)、現在の7月1日を「氷室の日」と呼びます。
現在は6月30日に氷室を開けることを「氷室開き」と呼び、特別な日となっています。
冷凍施設のない当時は、夏の氷は非常に貴重。
この貴重な氷が無事に江戸に届くように祈って、饅頭が供えられていたのが氷室饅頭の由来とされています。
その供えられる饅頭は金沢の生菓子職人 道願屋彦兵衛(どうがんやひこべえ)が、5代藩主 前田綱紀(つなのり)の時代に開発。
宮中の氷室の節会(せちえ)にちなんで、あん入りの麦饅頭として開発したのがはじめとされています。
※前田綱紀:加賀藩5代藩主。江戸前期の名君の一人として数えられる。
※氷室の節会:氷室に保存された氷を食べる宮中の行事で、旧暦の6月1日にあたる。
饅頭は何故、麦饅頭なのかというと、
麦は七十二候のひとつ「雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)」と使われるように、雪に耐えて芽を出し成長するという強さがあります。
その為、冬の寒さの中で育った麦を食べると病気にならないと信じられていたようです。
そこから、供えらえた麦饅頭を食べると無病息災につながるといういわれになり、7月1日に氷室饅頭として食される習慣が広がりました。
この麦饅頭がいつのころからか、酒饅頭で食されるようになったそうです。
ちなみに、同じ酒饅頭でも、金沢では氷室開きの頃に食されるもののみを氷室饅頭と言い、それ以外の日に食べるものは、氷室饅頭とは言いません。
氷室饅頭は日持ちするのか?
結論を先に言うと、日持ちはしません。
金沢駅に店舗を持つ、金沢を代表する和菓子屋さんの一部の氷室饅頭の日持ちをまとめてみました。
和菓子屋名 | 日持ち | URL |
森八 | 製造から32時間 | https://www.morihachi.co.jp/ |
越山甘清堂 | 店頭受取は当日。
発送品は2日間(エージレスパック) |
https://www.koshiyamakanseido.jp/ |
金沢 うら田 | 2日間 | http://www.urata-k.co.jp/ |
村上 | 2日間 | https://www.wagashi-murakami.com/ |
柴舟小出 | 4日間
(※酒饅頭ではなく、麦饅頭の為) |
https://www.shibafunekoide.co.jp/ |
どこの和菓子屋さんの氷室饅頭も日持ちしないことがお分かり頂けましたでしょうか?
そのなかで、「柴舟小出(しばふねこいで)」さんは日持ちが4日間と異色。
これは、他の4店の氷室饅頭が「酒まんじゅう」であるのに対して、柴舟小出さんは昔ながらの「麦まんじゅう」であるため。
酒饅頭の氷室饅頭は、日持ちしません。
これは、酒まんじゅうの特徴で、皮がすぐに固くなってしまい、モチモチ感が無くなってしまう為。
本来は、製造当日に食することが良いのですが、どうしても翌日になってしまう場合は、
濡らしたふきんに包んで、20~30秒程度電子レンジで温めてみて下さい。
モチモチ感が復活しますよ。
まとめ
いかがでしたか?
金沢では、もうある意味、義務であるかのように氷室饅頭をこぞって食べます。
隣県の福井や富山ではこのような習慣がありません。
隣県どころか、同じ県内でも能登地区では金沢程には習慣化されていません。
金沢を中心とした、非常にローカルな習慣です。
もし、あなたが、7月1日に金沢にいらっしゃっていたら、藩政時代に始まった金沢独自の初夏の風物詩を楽しんでみて下さい。